演劇と観光はどのように結びつき、人々を日常から別世界へ誘うのか――。
本書は、英米圏の演劇研究者マーガレット・ウェリーによる『Theatre & Tourism』（Methuen Drama, 2023）の全訳であり、近代以降の都市・観光・舞台芸術の関係を、文化史・社会学・パフォーマンス研究の観点から読み解く意欲作です。

本書では、帝国主義時代の「観光的な演劇」「演劇的な観光」の歴史をたどり、 劇場街・フェスティバル・文化遺産など「観光地としての劇場」を分析。 メディア時代における没入・臨場・体験の問題を扱い、 観光を通して見える現代社会の演劇的構造を浮かび上がらせます。

観光のまなざしを通じて、舞台芸術の新たな意味を問う――。
「地域創生のヒントにも」と評される本書は、芸術政策やまちづくりに携わる読者にも示唆を与えるでしょう。

主な特徴

• 観光と演劇の関係を体系的に論じた先駆的研究
• 現代口語演劇の第一人者・平田オリザ氏の付論を収録
• グローブ座やブロードウェイなど、実在の劇場を具体的に分析
• 現在盛況を見せるイマーシブ・シアター（没入型演劇）も紹介・分析
• 芸術と社会、地域文化の新しい接点を提案
• 演劇関係者、観光関係者、地方自治体のまちづくり・地方創生担当者に最適

書誌情報

• 書名：演劇と観光──近代娯楽文化の生態系と舞台芸術
• 著者：マーガレット・ウェリー（ミネソタ大学准教授）
• 訳者：小畑克典（芸術文化観光専門職大学准教授）
• 付論：平田オリザ（劇作家、芸術文化観光専門職大学学長）
• A5判・並製・232頁／定価：本体2,900円＋税
• ISBN 978-4-571-41084-0 C3074
• 発行所：福村出版株式会社

著者・訳者

［著者］マーガレット・ウェリー（Margaret Werry）

ミネソタ大学舞台芸術・ダンス学部准教授、学部長。パフォーマンス・スタディーズでノース・ウェスタン大学博士号を取得後、演劇、人類学、カルチュラル・スタディーズ、文化史など多岐にわたる分野で学際的に研究を展開。著作“The Tourist State: Performing Leisure, Liberalism, and Race in New Zealand”（University of Minnesota Press, 2011）では主として19世紀末から20世紀初頭、20世紀末から21世紀初頭にかけての南太平洋における文化政策と観光に着目し、観光、パフォーマンス、先住民に関する政治状況と自由主義国家形成の関係を検証している。

［訳者］小畑克典（おばた・かつのり）

芸術文化観光専門職大学准教授。ロンドン・ビジネス・スクール経営学修士。金融機関勤務を経て現職。日本戯曲の英訳、英文字幕作成に平田オリザ、岩井秀人、神里雄大、柴幸男、松井周作品など（いずれも共訳）。英国戯曲の和訳に「ギャンブラーのための終活ガイド」（Gary McNair“A Gambler's Guide to Dying”）など。

［付論］平田オリザ（ひらた・おりざ）

劇作家、演出家、芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場館長、青森県立美術館館長。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエを受勲、他受賞多数。主著に『芸術立国論』（集英社，2001年）、『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』（講談社，2012年）、『新しい広場をつくる――市民芸術概論綱要』（岩波書店，2013年）、『但馬日記──演劇は町を変えたか』（岩波書店，2023年）など。

本文サンプル

　演劇と観光は、互いに非常に近い関係にある。どちらも、ここではないどこか別の（時には遠く離れた）場所や時間への一時的な逃避体験である。あなたをここではないどこか別の人生や別の暮らしへと連れて行ってくれる。どちらも、空想や快楽や遊びを、文化についての真正な知識とない混ぜにしながら、本物の知識を身につけているような気にさせてくれる。飛行機に乗っていてもバスに乗っていても、あるいは想像の中で移動しているだけであっても、観光も演劇も、その本質は物理的に存在すること、すなわち「そこにあること」である。（序章『観光／演劇』）

本書チラシ

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