「精神障がいを抱えながらの子育てを支援する専門職向け研修動画プログラム」を開発・公開―大阪大学 蔭山正子教授(公衆衛生看護)らの研究グループ

株式会社ペンコム

2022.12.23 06:00

忙しい方たちが視聴しやすいように1本10-20分の動画。加えて動画だけでなくテキストのダウンロードも

大阪大学 蔭山正子教授(公衆衛生看護)らの研究グループは、精神障がいを抱えながら子育てする親へ高い育児支援のニーズを踏まえ、支援者が適切に支援できるようになることを目的としたe−ラーニングプログラム「ゆら育プロ」を開発。保健師を対象とした有効性の調査でも高い評価を得られた。

精神障がいを抱えながらの子育て支援e−ラーニングプログラム開発。有効性調査で高い評価

精神障がいを抱えながら地域の中で、子育てをしている親は、「病気をもちながらの育児」に対する支援が得られず孤立を味わうが、理解者と出会い救われる経験をしている−−。

大阪大学 蔭山正子教授(公衆衛生看護)らの研究グループは、高い育児支援のニーズを踏まえ、支援者が適切に支援できるようになることを目的としたe−ラーニングプログラム「ゆら育プロ」を開発。保健師を対象とした有効性の調査でも高い評価を得られました。

蔭山教授は「支援への苦手意識がある方、どう関わっていいかわからない方には特におすすめです。また、関係する多くの方にぜひ、活用してほしい」と話しています。

e-ラーニングプログラム「ゆら育プロ」

背景

精神障がいの方は増えており、子を産み育てる方も今後増加すると考えられます。精神障がいを抱えながらの育児を支援する専門家には、精神保健と母子保健を組み合わせた知識と技術が必要です。そこで精神障がいのある親とその家族を支援するためのeラーニングプログラムを開発しました。

プログラム

動画を用いた約3時間のeラーニングプログラム「ゆら育プロ」を開発しました。
「ゆら育プロ」は、子育てピアサポートグループ「ゆらいく」と開発した育児支援に関する、プロフェッショナルの方向けのプログラムです。
精神障がいのある親の視点、家族全体に焦点を当てたアプローチを重視しました。
親のほか、精神科医、保健師、看護師、精神保健福祉士の多職種で検討を重ねて作成しました。

プログラムは6つにわかれています。合計3時間です。
1:主な精神疾患と支援機関
2:当事者の経験と支援ニーズ
3:疾病特性・障がい特性と子育て
4:子ども、配偶者の体験と支援
5&6:母子保健、児童福祉従事者向けの支援

eラーニングプログラム「ゆら育プロ」の効果検証

全国の市保健センターで母子保健を担当する経験年数10年以下の保健師176名に協力を依頼しました。参加者が無作為に先行群と後行群に分かれてもらうランダム化比較試験を行いました。

評価指標には、支援の対処困難感・可能感、メンタルヘルス問題に関するスキル、プログラム目標の達成度を用い、介入前、介入後、1カ月後の3時点でウェブアンケートに答えてもらいました。

その結果、対処可能感・困難感、メンタルヘルス問題に関するスキル、プログラム目標の達成度のすべてにおいて受講後1か月にわたって効果が見られました。特に、対処困難感に大きな効果がありました。

考察

 本プログラムは、評価指標のすべてで効果がみられました。特に対処困難感の減少に効果が大きくみられました。保健師は精神障がいの方の対応は難しいと感じているという報告もあり、本プログラムは特に難しさを減らすことに役立ったと考えられます。

研究責任者 蔭山正子教授 まとめ

精神障がいのあると子育てには様々な困難が生じやすいです。それでも親として自分なりに懸命に努力されている姿を多く見ます。
本動画では、支援する側からはわかりにくい当事者、配偶者、子どもの気持ちや状況を知ることができます。彼らのことを理解することは支援する側の姿勢を変えると思います。
また、熟練者へのインタビューをもとにどのように支援しているかを動画に盛り込みました。
支援する側の理解や意図も学んでもらえると思います。
支援への苦手意識がある方、どう関わっていいかわからない方には特におすすめでしますが、関係する多くの方にとって自分の支援を振り返る良い機会になると思います。
忙しい方たちが視聴しやすいように10-20分の動画に区切っています。時間をみつけて少しずつご視聴いただければ幸いです。
 「ゆら育プロ」では、精神障がいを抱えながら子育てをしている親の立場の人以外に、配偶者や子どもの立場の方の意見も取り入れています。支援する人は、専門家の視点だけでなく、当事者、配偶者、子どもの視点をもって、家族まるごと支援を行っていただきたいです。

調査資料

書誌情報 公開日2022年12月5日
Masako Kageyama, Keiko Koide, Ryotaro Saita, Riho Iwasaki-Motegi, Kayo Ichihashi, Kiyotaka Nemoto, Setsuko Sakae, Keiko Yokoyama. A randomized controlled study of an e-learning program (YURAIKU-PRO) for public health nurses to support parents with severe and persistent mental illness and their family members. BMC Nursing, 21, 342, 2022
DOI: 10.1186/s12912-022-01129-0
https://bmcnurs.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12912-022-01129-0

『精神障がいを抱えながら育児を継続している親の経験』
池谷 実歩, 蔭山 正子
https://doi.org/10.20746/jachn.23.3_13

『精神障がいをもつ母親への保健師による育児支援技術 : 病状と育児のバランスを図る』
蔭山 正子, 田口 敦子
https://doi.org/10.20746/jachn.16.2_47

『ゆらいくホームページ』
https://yuraiku0501.wixsite.com/yuraiku

参考図書

『心病む夫と生きていく方法』
〜統合失調症、双極性障害、うつ病… 9人の妻が語りつくした結婚、子育て、仕事、つらさ、そして未来〜
著者・蔭山正子 出版:ペンコム
https://pencom.co.jp/product/20201030

お問い合わせ先・相談窓口:蔭山正子(研究責任者)

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-7 大阪大学高等共創研究院/医学系研究科保健学専攻
Eメール:kageyama@sahs.med.osaka-u.ac.jp

 

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