プライスレスな子犬たち 人はなぜ犬を飼うのか(12)
犬は人生の道先案内!?
仕事を終えて夜遅く家に帰って来た中高年のご主人を出迎えてくれるのは、家族ではありません。まるで、何年も会えなかったかのように、大喜びで迎えてくれるのは、愛犬なのです。娘の誕生日祝いにと飼った犬ですが、今では父親が家族の誰よりもかわいがっています。
「ハラスのいた日」の著者である中野孝次さんは、作家という職業柄、どうしても運動不足になりがちでした。それが、柴犬のハラスを迎えた60歳から、毎日2~3時間の散歩が日課になった結果、足腰がすこぶるじょうぶになったそうです。そして、「私の人生なかばからは、常にハラスという犬と共にあった。犬を思い出すことが、自分の人生を顧みることになった」と書かれています。
犬の散歩に毎日出かけることは、肉体的な健康ばかりではなく、季節の移り変わりを感じることで精神的な健康も育むことができます。散歩仲間といった地域社会での人間関係を作ることもできるのです。
脳梗塞で倒れた男性は、後遺症で言語障害が残り、医師からは「社会復帰はむずかしいかもしれない」と言われました。しかし、娘さんからラブラドールの子犬を贈られ、その子犬を散歩に連れていくことがリハビリ効果をもたらし、身体機能を回復させたのです。そればかりではなく、子犬に向かって話しかけているうちに、失語症も克服したのです。人には音にしか聞こえないような不明瞭な言葉であっても、犬はじっと聴いてくれるので、心理的な抵抗を感じることなく、話し続けることができたためです。
「何よりうれしかったのは、犬を連れて散歩をしているといろいろな人が自然に声をかけてくれたことです。犬との散歩を通じてたくさんの友人ができたことで、社会に復帰したような気持ちを味わいました。私の人生は、病気になる前よりも豊かになったように思います。」
男性と犬との関係は、今に始まったわけではありません。原始時代には、家族を洞窟に残して、、男は狩りに出ました。そして、何日も獲物を追う旅にお供をしたのが犬です。犬が持つ探索能力が狩りには不可欠なものだったからです。
わずかな食べ物を犬と分け合いながら旅する生活で、男と犬との間には特別な信頼関係が生まれました。縄文時代の遺跡からは、犬と人間が抱き合うように埋葬されている姿が発見されています。犬は、縄文人にとって欠かすことのできない大切なパートナーであっただけではなく、神や自然の声を聴くことができる「霊的な存在」として大切にされていたのではないかと考えられています。
現代社会で、男たちが犬にはまってしまう背景には、人間関係の希薄さ、孤独感といったことが理由として挙げられていますが、「無意識のうちに、身近な犬という動物の生態を通して、自然の中で生かされている人間本来のあり方を取り戻そうとするひとつの試み、自然への回帰願望からではないか」という意見もあります。
企業戦士として働き続けてきた男性が、定年後、悠々自適の生活を送りながらも、自分の存在価値や社会的意義などを見失って、無力感にとらわれることがあるといいます。しかし、犬を飼うようになると、毎日、食餌を与え、散歩に連れ出し、手入れをしなければなりません。そのためには、まず自分が健康でいなければなりませんし、自然に規則正しい生活を送ることになります。
犬に愛情を注ぎ、「自分がいなくては、この動物は生きてはいけない」と思うことは、日々の生活に適度な緊張感と張りを与え、生きることへの意欲をもふるいたたせてくれます。
犬を連れて散歩に出ると、一人歩きに比べて、いろいろな人と挨拶を交わす機会が増えます。犬が仲介役をしてくれて、地域社会に知り合いが増えることになるのです。
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