プライスレスな子犬たち 人はなぜ犬を飼うのか(10)
ロボット犬ではだめなわけ
ペットに話しかけるときに、ほとんどの飼い主は「赤ちゃん言葉」になります。母親語(マザー・リーズ)は、単語の繰り返しや質問、「~ですね?」といった付加疑問文などで、理解力の低い幼児などに接する時によく使われるものです。
どんなに機能が進んだロボットでも、犬にはかないません。なぜなら、犬は、「適度に手間のかかる存在」だからです。
飼い主は、「自分が世話をしなければ死んでしまう」という感情を抱くことで、「自分が犬にとってかけがえのない存在である」という満足感を手に入れます。ですから、ほとんどの飼い主は、「いかに愛犬のために尽くしているか」を嬉々として話すのです。
犬は、子育てを終えた中高年の人に親としての役割を与え、彼らは犬が自分に依存し続けることに満足感をもっています。
ホームレスの人が犬を連れているのを見かけることがあります。いわゆる社会的弱者であるホームレスの人が、捨てられた犬というさらに弱いものにエサを与えることによって、自分の存在価値を確かめ、癒されている相互扶助の関係が見えてきます。
この関係は、実は犬を飼っている人には、誰にでもあるものなのです。
世はまさに「保護犬ブーム」の様相を呈しており、保護犬をテーマにしたテレビ番組もけっこうな頻度で放送されています。そして、保護犬には必ず「かわいそうな」という修飾語が伴います。保護されたかわいそうな犬に救いの手を差し伸べるというストーリー展開で、登場するのは雑種と呼ばれる野犬やその子犬がメインで、たまに純血種のトイプードルなどが出演しても「劣悪な環境からレスキューされた」といったただし書きが付けられるのです。
テレビ局の番組制作を請け負っている会社から「番組でタレントがモジャモジャの毛をバリカンでカットするための保護犬を貸し出してもらえないか」という内容のメールが届いたことがあります。「保護した犬がモジャモジャだったら、まずシャンプーしてしっかりとトリミングすることを優先しなければならないので、番組の撮影までモジャモジャの状態で犬をキープすることは動物虐待になりかねません」と返信しました。
保護犬は、もはやブランドとして認識されるようになっていて、保護犬至上主義が世を席巻しているようですが、ペットショップで子犬を購入したからと言って非難されるいわれはなく、どのような経緯であなたのもとに来た犬であっても、縁があって迎えることになった犬を慈しんで幸せにできれば、飼い主としての責任はりっぱに果たしているのですから、胸を張っていただきたいと思います。
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