人はなぜ犬を飼うのか(2)
愛玩犬
成犬になっても、子犬の特徴を残している犬種も作りだされました。ペキニーズやポメラニアンなどです。これらの犬種に共通するのは、頭の大きさに比べて大きい目、短いマズル(口吻)、平べったい鼻、絶壁のおでこ、垂れ耳などで、こういった特徴を、幼形成熟(ネオテニー)と呼びます。幼形成熟は、行動面にも残り、成犬になっても従順な性格で、子犬のように遊び好きです。いつまでたっても成長しないように見える犬のことを、「ピーターパン犬」(Peter Pan Pooches)とも呼びます。
17世紀になって、愛玩犬が登場しました。実用性からではなく、審美的な目的で作りだされた犬で、イギリスが発祥の地でした。その定義は、「食用にはしない」「家の中で飼う」「名前をつける」といったことで、他の家畜とは一線を画していたそうです。
19世紀になると、小型の愛玩犬は貴族の間で流行になりましたが、それらの犬はおもちゃ、あるいは階級の象徴、ステータスシンボルだったのです。しかし、それにあこがれる一般市民の間にも普及するようになると、犬のもつ「寛大・感謝・忠実・愛情といった見習うべき性質」が評価されるようになるのです。
ハリエット・ビーチャー・ストウという人は、犬を「有機体になった愛情」と呼び、「4本の足を持ち、毛皮に包まれ、哀れみ深い目で見つめる愛情、あなたのために死にもするが口はきけない愛情」だと説明しました。抱きしめたくなるようなかわいい子犬は、「野蛮な自然を愛の香油で鎮めるように意図されて作り出された動物」と分析し、感傷的なペット崇拝ブームを解説したのです。
「犬は人類最良の友」と呼ばれています。猫を押さえて堂々のトップということになりますが、それは、犬は感情表現が人間に近いからと言われています。人間は顔の筋肉が発達していて、喜怒哀楽を表情として表現することができます。笑ったときには目の周りとほほの筋肉が変化して、笑い顔になります。同じように、犬はうれしいときには、耳が後ろに倒れ、くちびるが後ろに引かれて、うれしさが表情になります。一方、猫は顔の筋肉がそれほど発達していないので、感情を捉えることがむずかしいのです。
極端に頭部や目を大きくし、胴体や肢を短くするととてもかわいく見えるようになることを「キュート・レスポンス」と呼びます。愛玩犬は、キュート・レスポンスのために、自然界にはあり得ない姿に変えられていったのです。
人が犬に子どものような特性を求める理由について、スティーブン・ジェイ・グールド博士は、ディズニーの代表的キャラクターであるミッキーマウスの変化を引用して説明しました。最初のころに描かれたミッキーマウスはネズミに近い姿でしたが、年数を重ねるにつれて、鋭い表情から穏和なものに変わって行きました。耳や目が大きくなり、高く下向きだった鼻は低く小さくなりました。そして、現在のような子どもにも大人にも愛嬌たっぷりの印象を与えるようなキャラクターになったのです。
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