伝記ノンフィクション『奇跡のプリマ・ドンナ オペラ歌手・三浦環の「声」を求めて』大石みちこ著 KADOKAWAより刊行

株式会社アップルシード・エージェンシー

2022.10.11 15:25

オペラ〈蝶々夫人〉を国内外で2000回公演。明治から昭和に日本人女性が「声」一つで世界に挑戦した姿を、膨大な資料を通して描き出す

オペラ<蝶々夫人《歌劇 マダム・バタフライ》を生涯で2000回演じたプリマ・ドンナ、三浦環の伝記ノンフィクション『奇跡のプリマ・ドンナ オペラ歌手・三浦環の「声」を求めて』がKADOKAWAより10月4日に発売となります。 著者の大石みちこさんは脚本家として活躍しており、本書が初のノンフィクション作品となります。 大石さんは、新たに発見された本人直筆の手紙や、幼少期〜晩年の写真が収められたアルバム、演奏会プログラム、志賀直哉、村松梢風、三島由紀夫などの作家からの批評、同時期にロンドンに滞在した留学生の日記などの膨大な資料に丹念に当たり、生存している生前の三浦環と面識のある人物のもとを訪ね歩くなど、徹底した取材をもとに三浦環の実像に迫りました。

◆未公開・未発表の母との手紙とアルバムから新たな三浦環像を描き出す

本書には、これまで未公開・未発表だった三浦環と母、登波さんの手紙が20通収録されています。環の夫、三浦政太郎のお墓がある静岡県袋井市に親族が預託、崩し字を解読、データ化されて保管されていたものです。明治に生まれ、大正・昭和と激動の時代を生き抜き、大戦下の欧米で数々の舞台を踏んだ環が、「声」で生きていこうと決意した裏には、環が十代の頃に離婚して家を出た母、登波さんの存在がありました。二人の手紙からは、最初の結婚相手と離婚した時や、欧米に渡航した時など折に触れて環の身を案じ、好物の梅干しを親戚にお願いして送るなど、献身的に支える母の姿と、そんな母への想いを一途に「歌」で身を立てようと邁進しながらも、時には甘える環の姿が浮かび上がります。
太平洋戦争前の日本で盛んに催された博覧会の賑わいや、結婚よりも「歌」を選んだ環に対する世間からの厳しい視線、ほどなく再婚することになった環への下世話な好奇心なども手紙からは読み取れます。
また、疎開先の山中湖村に遺された3冊のアルバムから、写真もいくつか新たな史料として本書に収められています。
戦争が激化し、東京・麹町から山中湖村に疎開した環母子。オペラはおろか、西洋の歌を聴いたこともない村人の中には、湖畔に向かって歌う環の歌声を気味悪がる者も多かったといいます。物がない質素な疎開暮らしの中で、87歳まで生きた母、登波の介護を一身に負った環。母娘は強い絆で結ばれ、今もいっしょに山中湖村の墓地で眠っています。

◆プッチーニが讃えた唯一無二の《蝶々さん》~国内外で華々しい活躍をした三浦環

環がオペラ《歌劇 マダム・バタフライ》の初舞台を踏んだのは大正4年5月31日、ロンドン・オペラハウスでした。作曲家のプッチーニは「マダム・ミウラがうたっているのではない。私が心の中で描く、幻のマダム・バタフライが舞台に現れたと思いました(略)あなたは世界にたった一人しかいない、最も理想的な蝶々さんです」とその存在感を讃えています。
環の「声」は海外のオペラカンパニーで認められ、ドイツ・ロンドン・イギリス・アメリカと、大戦下の欧米で著名な歌手と共にロイヤル・アルバート・ホールやホワイトハウスなどの舞台に立ち、ジャポニズムを越えて、日本文化のアイデンティティの確立に貢献しました。
日本でも、実業家・渋沢栄一、歌手・藤原義江、李香蘭(山口淑子)、画家・藤島武二、作曲家・滝廉太郎など財界人・芸術家との交流があり、東京音楽学校、帝国劇場と大舞台に立ち続けました。大正11年には、レコード録音し、日本全国を巡演し、一方で後輩たちを育てることにも尽力しました。
明治~昭和期に「声」一つでプリマ・ドンナの階段を駆け上がった環は、綺羅星のごとき存在でした。
代表作《歌劇 マダム・バタフライ》の舞台となった、長崎県のグラバー園には三浦環とプッチーニの像が並んでいます。

◆人間・三浦環を真正面から描いた伝記ノンフィクション

これまで三浦環は、華やかな活躍の一方で、二度の結婚や、離婚にまつわるスキャンダラスな報道、ストーカーまがいのマネージャ―からの逃避行などで、恋愛に奔放な女性像として描かれることもありました。本書では、ひとつひとつの史実を丁寧に拾い、これまで描かれなかった三浦環の人間像とドラマが流麗な筆致で綴られています。
日本の芸術史に新たな光を当てるノンフィクションとなっています。
【目次】
第一章 誕生 歌う喜び  
第二章 東京音楽学校
第三章 《歌劇 オルフォイス》日本初のオペラ公演 
第四章 スキャンダル
第五章 戦時下の海外デビュー
第六章 プリマ・ドンナという運命
第七章 訃報
第八章 わたしをお愛しください
終章 環の冬の旅

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