重要なのは実年齢ではなく腸の年齢!大豆発酵食で体の中から若返り
毎日のエイジングケアにスーパーパワー食材「大豆+発酵」
今年2月、細胞が老化するメカニズムを沖縄科学技術大学院大学の研究チームが解明し話題となりました。近年、世界中で老化に関する研究が行われ、老化のスピードを遅くする、または逆戻りさせるという可能性が見えてきました。体を若返らせる、寿命を延ばすといったことが現実に近づいてきたのです。若返りのキーになるのが腸内環境です。腸内細菌と健康長寿を研究する、京都府立医科大学大学院医学研究科教授、内藤裕二先生が、エイジングケアのための食事方法を解説します。
34歳、60歳、78歳で急激に老化
中年期 40~64歳 に入ると体の衰えを感じるようになりますが、実は老化は青年期から始まっています。さらに、スタンフォード大学の研究チームがヒトの血漿たんぱく質を分析したところ、老化は一定のペースで進行するのではなく34 歳の青年期、60歳の壮年期、78歳の老年期で急激に進行することがわかりました。(※1)
急激な老化を避けるためにも、日頃のエイジングケアは20~30代から始めて、早すぎるということはありません。老化は美容面のダメージだけでなく、体力やメンタルの衰え、病気にもつながり、長い生涯の生活の質を落すことにつながります。
※1)Nature Medicine volume 25, pages1843 1850 (2019)
腸年齢=見た目年齢、腸を若返らせることがエイジングケアの基本
同じ年齢でも元気で若々しい人、実年齢より老けて見える人がいます。老化のスピードには個人差があり、実年齢(時間の経過)とは別に生物学的年齢(体の年齢)という考え方が注目されています。ニュージーランド人を対象にした研究では、顔の見た目が老けている人は生物学的年齢が進んでいる、つまり体の中の老化が進んでいることがわかりました。(※2)
体の中の老化を食い止めるには、腸がカギを握っています。腸内フローラが整っている人は腸が若く、生物学的年齢も若いことがわかっています。
※2)Nature Aging volume 1, pages295 308 (2021)
腸の若返りのポイントは大豆と発酵
生物学的年齢=腸年齢といっても過言ではないほど、腸と老化には密接な関係があります。2017 年から、京都府京丹後市の高齢者を対象に、腸内細菌を調べる研究を行っています。(※3)京丹後市に在籍する100 歳以上の長寿者は、全国平均の2.7倍、長寿地域として知られています。
京丹後市の長寿者の腸内細菌を調べてみると、酪酸菌が多いことがわかりました。酪酸菌というのは、酪酸を産生する菌のことで、老化防止に重要な役割を果たしていることがわかっています。腸内細菌は食べ物の影響を強く受けます。特にたんぱく質と食物繊維の摂り方が影響します。京丹後市の高齢者は、たんぱく質を大豆を中心に魚、卵、鶏肉で摂っていることがわかりました。また、発酵食品を日常的に摂っています。
※3)京都府立医科大学 COI プログラム「京丹後長寿コホート研究」
腸と老化の深い関係
100年以上前、ノーベル賞を受賞したイリヤ・メチニコフ博士は腸内の腐敗菌による毒素が老化の原因になると考え、老化と腸内細菌の関係を世界で初めて報告しました。メチニコフが腸内の腐敗菌の働きを抑えるために見つけた食材がヨーグルトでした。その後、メチニコフは腸内フローラのバランスを整えることが老化や病気を防ぐと考え、生涯ヨーグルトを食べ続けました。
現在、腸内細菌が老化に及ぼす影響について研究が進んできました。動物実験では若い個体の腸内細菌を老化した個体に移植すると寿命が延びることが報告されています。マウスによる研究では、老化したマウスの腸内細菌を若い無菌のマウスに移植すると、老化の指標となる全身の慢性炎症が誘導されたことがわかりました。(※4)
※4)Front Immunol 2017;8:1385
腸を若返らせる食材、老けさせる食材
腸を若返らせるためには腸内細菌の多様性を高くし、腐敗菌の働きを抑えることです。菌の種類が多いほど、いい菌が棲みやすい環境をつくります。菌のバランスは食べ物で決まります。腸を若くするには「まごわやさしいよ」をキーワードにして食材選びをするといいでしょう。
発酵食品が腸年齢を若返らせる理由とは?
腸内にいる微生物を腸内細菌といいますが、微生物はこの世界の中のあらゆるところに存在します。発酵食品は、この微生物の働きを活用しています。体によい働きをする物質を作り出すのが「発酵」、悪い物質をつくりだすことを「腐敗」といいます。発酵の段階で体にいい物質をたくさんつくっているので、発酵食品は健康に寄与するといわれています。また、発酵によってうまみが増し、食べやすくなることも発酵食品の利点です。
近年の研究で発酵食品に含まれる成分が、直接腸内環境に働きかける、腸内細菌のエサになる、腸内細菌の多様性をもたらして腸内フローラを変えるということがわかってきました。発酵食品は腸活にはかかせない食品となっている理由です。
大豆の発酵食品は腸を若返らせる最強食材
大豆は腸を若返らせるためのオススメ食品ですが、さらに発酵した大豆は最強です。発酵によってつくられた物質の恩恵も同時に受けることができ、さらに大豆の食物繊維も腸活に有効に働きます。大豆の発酵食品というと納豆が代表的な存在ですが、大豆ヨーグルトが腸活のトレンドアイテムとして話題となっています。
大豆の発酵食品は、発酵によって腸活に有効な物質がつくられるだけでなく、大豆のたんぱく質や食物繊維が分解され吸収されやすくなっています。植物性たんぱく質は動物性たんぱく質に比べて吸収率がやや劣りますが、発酵食品はそれを補ってくれます。
日本人の腸によく合う「大豆ヨーグルト」
腸内細菌の種類やバランスは、在住している地域でそれぞれ特徴があります。腸内環境は食べているものでつくられるため、食べるものによって腸内細菌が異なります。例えば、パプアニューギニアの高地に住む人はたんぱく質の摂取量が少ないのですが、サツマイモからアミノ酸をつくる腸内細菌を持っています。長い食の歴史の中で、腸内環境は地域の食べ物に合うようにつくられてきました。日本人は日本食に合わせた腸内環境であるということです。
ですから、欧米の食文化である乳製品は、本来は日本人の腸内環境に合いにくいのです。牛乳には乳糖という成分が含まれていますが、日本人の多くは乳糖を分解する遺伝子を持っていません。このため、乳糖不耐の症状が現れることがあります。しかし、乳糖は大腸のビフィズス菌が分解してくれるため、誰もが牛乳を飲んで下痢をするわけではありません。日本人にビフィズス菌が多いのは、乳糖を分解する遺伝子を持っていないためではないかという説もあります。
日本人の腸に合ったヨーグルトは大豆を発酵させてつくったヨーグルトです。豆乳ではなく、“大豆をまるごと”使ったヨーグルトは、たんぱく質や食物繊維など大豆の栄養をそのまま摂れるので、腸を若返らせる食材としては大変優秀です。
腸が老いると血管が老いる、若返り腸活は20 代からシニアまで継続
最後に血管についてもお話しましょう。100年前、米国のウイリアム・オスラー博士が「人は血管とともに老いる」という有名な言葉を残しました。動脈硬化は血管の老化の代表ともいえる状態ですが、腸内環境と動脈硬化には密接な関係があります。近年腐敗菌がつくる物質TMAOTMAO(トリメチルアミン N オキシド)が動脈硬化の起因や進行に関わっていることがわかっています。ヒトによる研究でもTMAO が血中に多いと心疾患のリスクが高いと報告されています。(※5) TMAO は慢性腎臓病の誘因や悪化にもつながっており、腸の老化があらゆる臓器に影響していることがわかっています。
腸を若返らせることは、見た目が若々しくなるだけでなく、病気を防ぎ健康維持にも大きく役立ちます。腸の若返りは20~30代から始めて、ミドル~シニア世代まで継続していきましょう。
※5)N En gl J Med,368:1575 1584,2013
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