第6回 真珠湾「騙し討ち」説の崩壊―ルーズベルトは知っていた、その最終にして完全なる報告6

株式会社22世紀アート

2023.10.18 11:51

日本の名誉回復に声を上げる。岸信介が「世紀の愚行」と称した真珠湾先制攻撃に厳正なる 評価が行われることを切望する、白松繁氏が送る全11回にわたる報告書。

真珠湾史実研究会代表 白松繁

真珠湾攻撃事前察知”予知説”の立証2「暗号解読」

日本海軍が太平洋戦争中使用した暗号は、各種合計29種類が存在したと言われているが(1)、作戦遂行上最も多用したのが真珠湾攻撃2年前より使用開始した「海軍D暗号」であった。これは選択した用語(暗語)計33,333語を5数字化した方式で、米海軍内では「5数字暗号」と称し、早い段階から解読に取り組んでいた。本稿では主要D暗号以外の暗号について解説し、米海軍がそれらを解読、日本艦船の動向追跡に活用していた実態を報告する。そのひとつは海軍商船暗号[暗号書S], ふたつめは各艦船(含給油艦)、部隊、将校、マルシップ(商船)に付与された固有の[呼出符号]、みっつめは各艦船、商船、個人が自らの出発、到着、目的地を所属部隊に報告する[艦船発着信暗号]である。さらに、これらを含めた解読情報に方位測定(RDF)をベースとして全日本艦船の動向を分析評価する「通信解析日報」(Communication Intelligence Summary)を作成、活用していた。拙著「電子本」p147、「表3 米海軍通信解析日誌と傍受記録の種類」を参照。

 

 

・開戦前の暗号解読 

1)商戦暗号解読:

海軍商船暗号は、99%解読可能であったと米太平洋艦隊情報参謀エドウィン・T・レイトンが自著『太平洋戦争暗号作戦(上)』p96で明らかにしている。米海軍は海軍所属商船(主に輸送任務)の動向を確実に把握していた。

 2)呼出符号(コールサイン)解読:

呼出符号を解読できれば「誰から誰へ」が判る。すなわち発信艦名と受信艦名、発信部隊名と受信部隊名、発信者と受信者名が判る。これだけでも判れば、ある程度の暗号発信意図を推定可能。特に呼出符号解読は暗号解読の入り口(原点)と言われている。米海軍は毎日傍受する数百の通信文にある呼出符号を、多くの人員のほか大量の情報を迅速に整理するIBM統計機の利用で呼出符号の該当名を短期で割り出し、呼出符号表「HYOO-8、HYOO-9, HYOO-10の3版を開戦前に作成していた(即ち解読していた)。

天気予報電の傍受‐11月27日~12月6日の間に、軍令部からStriking Force(打撃部隊=機動部隊)宛てに発した天気予報電は計5通。これらを傍受した米海軍が機動部隊のハワイ接近を察知した。日本の地上局から全艦宛て発信であっても、2段目にある呼出符号「SIWI 1」がStriking Forceと認識していた米海軍諜報部がこれらの天気予報通信を傍受、AI(オアフ島)、AF(ミッドウェー島)の天気予報を必要としていた部隊は機動部隊をおいて他にはない。

 

 

拙著「電子本」p153「表4 呼出符号表」、p154「表7 41年11・12月米海軍解明呼出符号例」参照。

 

 

 

 

3)地点略号(ロケーションコード)、作戦部隊名(タクティカルフォース)の解読:

日本海軍が使用した地点略号は該当地点英語名のイニシアルを使用していたため、米海軍は容易に解読できた。例えばAはアメリカ、AHはハワイ、AIはオアフ島(2)、AICはホノルル(3)、Gはグアム、AF(またはMI)(4)はミッドウェー等々。また米国以外では、日本および太平洋に点在している各島嶼も同様な方式による略号を使用した。例えばNは日本、日本統治領は、最初にPacificのPをつけてPS(サイパン)、PP(パラオ)、PT(トラック)、PY(ヤルート)等々。また作戦部隊名も作戦地域名の頭文字をとり、E Force(英領マレー部隊)、H Force(オランダ領東インド部隊)、G(Guam Occupation Force(グアム攻略部隊)等々、地点略号解読だけで日本海軍の作戦場所/作戦意図がある程度推定できた。従ってこれら地点略号と作戦部隊名および呼出符号の3点の解読を合わせれば、日本海軍の主要暗号「D暗号」の解読以前に、日本の作戦意図を概ね推察することが可能であった(5)

拙著「電子本」p155、「表8 41年11月25日H局傍受電例」参照。

 

 

 

4)通信解析、方位測定(RDF)による日本艦船動向観察

米海軍(ハワイHYPO局)は、日本艦船の動向をチェックするため、地上局および艦船が発信した電波を毎日傍受、呼出符号、地点略号、艦船位置情報(含RDF)から通信解析を行い上層部に報告していた。

(1)Communication Intelligence Summary(通信諜報概要CIS)

(2)Trace Record for Air Craft Carrier Akagi by Radio Direction Finder(RDF)、方位測定による空母赤城の追跡記録

上記(1)CIS 報告内容例に注目。

注目例2件

1941年11月30日報告―無線封止下の傍受通信例

➀【The HIEI sent one message to Chief of Staff Third Fleet(戦艦比叡が第3艦隊参謀長宛て一件のメッセージを発信した)

②【The only tactical circuit heard today was one with AKAGI and several MARUs(本日、戦術用回線で唯一聞くことができたのは赤城と数隻のマルシップ(商船)であった)

ここで注目すべきは、太平洋を横断中の旗艦「赤城」に座乗の南雲長官が、この日、行方不明の随伴潜水艦イ23を探そうとして、「現在位置を知らせよ」と発信したとのこと。これは戦後行われた海軍関係者の座談会で、真珠湾攻撃総隊長の淵田美津雄が明らかにした(6)。本件は、米側に傍受された証拠なしという理由で問題視されなかったが、同じ日に米側が赤城の発信を傍受していた記録(上記②)がCISレポートに存在しているので、やはり本件は、傍受されていたと判断すべきである。また「連合艦隊は無線封止令を断固厳守していた」との主張は11月22日、呼出符号8YUNA、11月23日のSASO2、12月7日のYUNE 8のいずれも赤城の発信が傍受記録に存在していることで、崩れたと見てよい。拙著「SS本」p170、添付3 「比叡」と「赤城」の傍受例参照。

上記(2)空母赤城の方位測定RDF追跡記録について、拙著「SS本」p199、添付7より以下最初の列のみ表示する。

  8E‐YU(赤城呼出符号)AKAGI -CV (空母赤城)    -C(サイクル)

  COM  FLT AIR FLAG      

  ALT      HAMI 9(代替呼出符号)

  BRG(方位)311F V(ビクター局サモア)、5900(周波数)

  8-01(傍受日、1941)

上記例は一列目だけ示したが、赤城が移動する都度、太平洋に展開している各傍受局が赤城の方位を測定し、地点を表示(緯度経度か)することで移動経路の追跡を可能にしていた。なお括弧内は筆者の加筆。

上記(2)のRDF追跡例2を紹介する。タンカー(給油艦)のRDF追跡記録(拙著「SS電子本」p158,図4 米海軍作成日本給油艦船追跡海図参照。

本図はRDFにより日本給油艦6隻(鳴門、極東丸、鶴見、尻矢、早鞆, イロ)の日本とサンフランシスコ、ロサンゼルス間の1940/10/01~12/6日の航行追跡例である。

翌年の真珠湾攻撃に際し、極東丸が機動部隊に参加,尻矢はミッドウェー破壊隊に属し参加した。尻矢は、ミッドウェーに向かう途中の航行経路報告(発信)が米側に傍受されていた(7)。当時米海軍は尻矢が機動部隊所属ミッドウェー破壊隊の所属であると認識していて、この時期太平洋を東進する給油艦がミッドウェー方面に向かっていると予測できた。尻矢の12月1日発信「This ship is proceeding direct to position 30-00 N. 154-20 E. Expect to arrive that point at 15:00 on 3 December. Thereafter will proceed eastward along the 30 deg. North latitude line at speed 7 knots.(本艦は北緯30度、東経154度20分に向け航行中、同ポイント到着予定12月3日。以降北緯30度線に沿って7ノット東進する)であった。

 

 

 

5)NAVAL MOVEMENT REPORT航路通報(含通信ゾーン変更通知)による日本艦船の位置特定

拙著「電子本」p150、添付6 NAVAL MOVEMENT REPORT(艦船移動報告)を参照。

 

 

(同図*1)41/6/21 駆逐艦「あさかぜ」の航路通報例:東経118.10、北緯13.50、時間1911、周波数11370A(Kc)とあり、その後6/22,23,24の位置報告有り。米海軍は本通信を傍受、日本艦船の位置を特定していた。

(同図*2)41/6/24 空母「龍驤」サイパン鹿島通信ゾーンから1200時赤城通信ゾーンへの移動報告を傍受、日本艦船の位置を特定していた。

 

6)通信ゾーン移動報告傍受による日本艦船の位置特定例2件

その1)機動部隊所属イ19号、呼出符号TAYU 66潜水艦およびROTU 00の呼出符号のイ21(orイ23号)の潜水艦が日本列島の太平洋側を北上中、規定に基づき通信ゾーン変更通知を行った。最初が横須賀通信ゾーン、次が大湊通信ゾーン、さらに北方の第一航空艦隊ゾーンへ変更する旨通知した。これらの通信を傍受した米海軍は、日本機動部隊が大湊よりさらに北方の場所に集結地(ヒトカップ湾)があると推定可。

その2)拙著「電子本」p156、添付5 1941年11月29日付けIntelligence Report(海軍内諜報レポート) 通信ゾーン変更通知解読例訳(最下段部)

「第2艦隊司令官が通信ゾーンを29日0400時より呉通信ゾーンに変更、12月01日零時より佐世保通信ゾーンへ、12月02日零時より馬公通信ゾーンへ変更する旨通知している」。これにより第2艦隊が日本本土より南方へ移動することが解る。本記述は真珠湾前にD暗号通信ゾーン変更通知電を米海軍が解読していたことを示している。

 

 

 

(まとめ)

米側が日本海軍主要暗号「D暗号」を真珠湾前に解読していたか否かの議論が絶えないが、本稿6で概説した上記6項目が開戦前に解読されていた事実は重大である。と言うのもこれら6項目の解明により、日本艦船の行動を確実に追跡できていたからである。一例を取り上げると、開戦前の11月29日付け米海軍内諜報報告(Intelligence Report)に記載している通信ゾーン変更通知(D暗号ベース)は、傍受記録を基に海軍部内配布用に記載したものであり、開戦前にD暗号を既に解読していたことを意味している。また給油艦「尻矢」の航路通報も、緯度、経度、時間、周波数の報告に限定したNaval Movement Report(航路通報暗号システム)による発信ではなく、D暗号によるものと判断する。特に、「~に向かって航行中」「~に沿って東進中」などの動詞が含まれる文は、D暗号による報告と判定する。

それにしても米海軍の暗号傍受力と解読力のすごさには驚きを禁じ得ない。翻って日本海軍は、暗号解読の入り口である米海軍使用の「呼出符号」でさえ、とうとう最後まで解読に至らなかった。言うべき言葉もない。

 

(1)「スティネット本」p45

(2)AIは、軍令部がホノルル総領事報として発信した41年11月27日電報「6隻の米貨物船が4隻の駆逐艦に護衛されて11月16日夕刻、AICを出港した」の傍受電でAICがホノルルであることが判る。またAICから3文字目の都市名を表すCをとればAIがハワイ島であることが判る。

(3)AICは、上記の電報通りホノルルであることが判る。

(4)AFは、SS本p304の11月30日付けStriking Force(打撃部隊=機動部隊)向け天気予報電例1を見ると「30日9時現在、AIは西の風5m、AF方面は雨」となっている。AIは上記でハワイと判明している。ここでいうAF方面は、機動部隊が必要としている天気予報場所、即ちミッドウェーであることが判る。

(5)但し頭文字でない例外もある。AA(Wake)Occupation Force(ウエーク攻略部隊)、AF(Midway )Destruction Unit(ミッドウェー破壊部隊)、Striking Force(打撃部隊=機動部隊)等、しかしAFがミッドウェーであることは、上述したように天気予報電で推定できた。Striking Forceは言葉そのものから打撃部隊/攻撃部隊=急襲部隊と訳せ、これらの言葉に相当する部隊は機動部隊と行きつく。但しAAがウエーク島を指すことを連想させる関連電報などがないが、AI, AF以外の太平洋におけるアメリカの重要基地のある島と言えば自ずとウエーク島と連想可。

(6)半藤利一著『真珠湾の日」文藝春秋、2001,p167

(7)Pre-Pearl Harbor Japanese Naval Despatches (真珠湾前の日本海軍発信電記録No.0000048)、防衛省防衛研究所戦史研究センター所蔵

 

【著者書籍】
そのとき、空母はいなかった: 検証パールハーバー (22世紀アート)/白松 繁
真珠湾攻撃 「だまし討ち説」の破綻 裏口参戦説を糾す/白松 繁

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