英ロータス、自動運転技術で日本に本格進出 中国子会社経由で市場開拓
英高級車ブランド「ロータス・カーズ(Lotus Cars)」は自動運転技術で日本市場に本格進出する方針を決めた。中国に持つ子会社「ロータス・ロボティクス(Lotus Robotics)」が人工知能(AI)を使った自動運転支援システムなどの受注活動に入ったほか、この子会社に追加出資する日本企業の募集を始めた。最先端AIに基づく自動運転技術を活用したい日本企業との商機を探る意向だ。
ロータスは1996年にマレーシアのプロトン傘下に入ったが、17年に親会社が浙江吉利控股集団(Geely Holding Group)に入れ替わっていた。
ロータス・ロボティクスの李博・最高経営責任者(CEO)が36Kr Japanのインタビューで、日本市場の開拓を含む事業展開を語った。同社は2021年の設立で、自動車を「世界で最も台数が多いAIロボット」(李氏)と位置づけ、AIを応用した自動運転技術の開発を進めている。主な拠点を自らが本社を置く中国浙江省寧波、吉利の本社がある浙江省杭州、独フランクフルトの三都市に構え、合計で400人超の社員を抱えている。
李氏は自社の主力事業について①自動運転支援システムの「ROBO Soul」②自動運転システム向けのAI開発ツールである「ROBO Galaxy」③遠隔運転支援システムの「ROBO Matrix」――の三つで構成していると解説した。このうちROBO Galaxyは運転データ収集用機器の「ROBO Logger」と組み合わせて使う仕様となっている。
李氏はこれらの事業について、すでに完成車メーカーによる採用の実績があることを明らかにした。ロータスの電気自動車(EV)「エレトレ(Eletre)」、吉利とボルボの共同出資により設立された高級車ブランド「リンク・アンド・コー(Lynk & Co)」、吉利の新エネルギー車の商用車ブランド「遠程汽車」といった親会社向けのほか、中国の車載電子機器大手である徳賽西威汽車電子(Desay SV)向けに納入している。社名を公表できない顧客も多い。
李氏は自社の技術水準にも触れ、すでにエレトレとリンク・アンド・コー Z10シリーズでは高速道路向けの運転支援システム「NOA(Navigate on Autopilot、自動運転のためのナビゲーション機能)」を実用化していると説明した。エレトレとZ10は、中国の市街地の一部でもNOAを実現し、今年末までに中国全土に対象地域が広がる予定だという。
中国にはAIを自動運転技術に応用する会社が多数存在するが、李氏は自らの経歴をもとに自社の技術優位を強調した。李氏は09年に東京工業大学で物理情報システム工学の修士号を取得(のちに博士号も取得)し、本田技術研究所に入社。11年に吉利に転職し、同社が初めて設立した自動運転技術の開発チームに入った。このチームで中堅幹部として経験を積んだ後、20年にいったんアリババグループの先端技術研究機関「アリババDAMOアカデミー(達摩院)」に移り、21年にロータス・ロボティクスのCEOに就いた。
結果として、同社には①吉利で自動車を研究していた人材②アリババでAIを研究していた人材③外資系企業など外部から招いた人材――の三つの人材グループが存在している。李氏は「自動運転向けAIのアップデートを続けるには、効率の高いアルゴリズムを素早く開発する人材チームの力量が欠かせない」と話し、自社の技術優位は人材の多様性が支えていると指摘した。
ロータス・ロボティクスは親会社が中国資本の英国企業である特徴を背景に、自動運転システムに演算能力を提供するデータセンターをドイツと中国で運営している。「ドイツでは欧米の顧客、中国では中国の顧客に対応する」(李氏)というデータセンターの分業が受注獲得で役に立っているという。さらに、吉利の出資先であるプロトンなど東南アジアの自動車メーカーから受注を拡大するため、シンガポールで現在、データセンターを建設していることも明らかにした。
李氏は日本市場を巡り、開発ツールのROBO Galaxyで1社を顧客として確保したことも明らかにした。顧客の社名は公表しなかった。日本では今後、ROBO SoulとROBO Matrixを含む三つの主力事業すべてで受注を獲得し、本格参入を目指す方針だ。完成車メーカーやティア1(自動車メーカーと直接取引がある大手部品メーカー)のほか、運転を遠隔地から支援するROBO Matrixでは大手通信会社との商機を探っていく。同社には李氏以外にも日本語を使える社員がおり、日本企業との商談に全く不安はないという。
トヨタ自動車の中国合弁会社が今年6月、華為技術(ファーウェイ)の技術を使ったEVを25年に発売する計画を発表するなど、日本の自動車メーカーが中国のハイテク企業と協力する例は増えている。ただ、李氏はこれらの先行例は中国市場向けの商品開発が中心だと指摘し、「当社は日本メーカーが中国ではなく、中国以外の市場で発売する自動車の開発で協力したい」と強調した。
(36Kr Japan編集部)
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