2023年日本のモバイルゲーム市場に見る日本と海外パブリッシャーの異なる戦略
2023年の日本におけるモバイルゲーム収益は、同年に10周年を迎えた『モンスターストライク』がトップとなりました。パブリッシャー別に見ると、日本が上位6タイトルを占め、海外の4タイトルがそれに続いています。日本と海外のパブリッシャーでは、日本市場における戦略の違いが見えてきます。
2023年収益上位6タイトルは日本パブリッシャー、リリース5年以上のモバイルゲームが5タイトルを占める日本市場
Sensor Towerのストアインテリジェンスのデータによると、2023年の日本におけるモバイルゲーム収益・成長量トップ10は、次のとおりです。
収益では2023年に10周年を迎えた『モンスターストライク』(MIXI)が約5.7億ドルを記録してトップとなりました。トップ4までのタイトルは2022年と変わりなく、2023年1位の『モンスターストライク』と2位の『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)が入れ替わった形です。
収益成長量では、上位2つが海外パブリッシャーのタイトルとなりました。収益成長量1位の『崩壊:スターレイル』(miHoYo)は、2023年4月にリリースされた新作ですが、リリース直後から日本でも人気を集め、2023年の収益成長量は2億ドル以上になりました。
日本と海外のパブリッシャー別収益シェアを見ると、収益では日本パブリッシャーが全体の約70%、収益成長量では約40%となっています。2022年との比較では、収益シェアはほぼ同じですが、収益成長量は海外パブリッシャーに8%の伸びが確認できます。
モバイルゲーム収益ではコラボが重要なカギ、しかし日本と海外パブリッシャーでは戦略が異なる
ここからは、日本市場における日本パブリッシャーと海外パブリッシャーの戦略の違いを考察していきます。
2023年モバイルゲーム収益トップ10では、日本パブリッシャーが6タイトル、海外パブリッシャーが4タイトルです。日本パブリッシャーの6タイトルのうち、リリースから5年以上経過(2023年時点)しているタイトルは、『モンスターストライク』『Fate Grand/Order』(Aniplex)、『プロ野球スピリッツA』(KONAMI)、『パズル&ドラゴンズ』(GungHo Online Entertainment)、『ドラゴンクエストウォーク』(SQARE ENIX)の5タイトルにもおよびます。
競争が激しいモバイルゲームの世界で、どのような戦略で上位をキープしているのでしょうか。1つは定期的なゲームのアップデートがあげられます。不具合解消以外に、新キャラや新ストーリーの追加、バランス調整、周年イベントなどを絶え間なく続けることで、プレイヤーを惹きつけることに成功しています。
もう1つは、コラボやイベントの展開です。日本パブリッシャーのモバイルゲームはゲーム内コラボ・イベントを積極的に行い、収益確保に成功しています。IPジャンルとしてはアニメやゲームとのコラボが多い傾向ですが、『ウマ娘 プリティーダービー』では競馬場とのコラボ、『ドラゴンクエストウォーク』では現実世界にある飲料自動販売機とのコラボなど、ゲームの特性に合わせた展開をしています。
ゲーム内コラボ・イベントのインパクトは、パワーユーザー(1ヵ月に15日以上使用したユーザー)の推移でも確認できます。Sensor Towerのデータによると、2023年日本のモバイルゲーム収益トップ10のタイトルにおけるパワーユーザーの推移では、年末年始にパワーユーザーが増加する傾向はいずれのタイトルでも共通しているものの、全般的に日本パブリッシャーのタイトルが多い傾向です。
例えば、2023年8月に8周年イベントを展開した『Fate Grand/Order』、10月に10周年を迎えた『モンスターストライク』などは大きくパワーユーザーが伸びており、『プロ野球スピリッツA』ではダルビッシュ選手が選定したOB選手が登場するスカウト「ダルビッシュセレクション」の開催などで11月にパワーユーザーが増加し始めていることがわかります。
これらの戦略は海外パブリッシャーのモバイルゲームでも実施されていますが、その様相は異なります。特にコラボにおいては、大きな違いがあります。例えば、収益トップの『モンスターストライク』は、2023年に毎月ゲーム内IPコラボを実施しましたが、収益成長量トップの『崩壊:スターレイル』(miHoYo)では0回、2位の『勝利の女神:NIKKE』(Level Infinite)は2回となっています。
その一方で、海外パブリッシャーのタイトルはゲーム外のコラボが積極的です。一例を上げると、『崩壊:スターレイル』ではハンバーガーチェーン、フラワーギフトショップ、鉄道会社などがあり、『勝利の女神:NIKKE』ではコンビニエンスストアやコミック雑誌での連載、『原神』では郵便局や東京スカイツリーとのコラボを展開するなど、内容やジャンルは多岐にわたります。
こうしたゲーム外の積極的なコラボ展開にプロモーション費用を投下することで認知を広げ、プレイヤーになってもらう流れを形成する戦略だと思われます。
SNSの活用にも日本と海外で違い、広告ネットワークでもその色が濃く出る
各タイトルにおけるユーザーへのリーチ方法にも違いが見えます。2023年日本におけるモバイルゲーム収益トップ10のSNSを比較すると、X(旧:Twitter)およびYouTubeの活用はすべてのタイトルで実施されています。
TikTokの運用については、中国パブリッシャーが上手に活用しています。日本パブリッシャーのタイトルではTikTok公式アカウントが存在しないものもある中、中国パブリッシャーのタイトルではTikTok内でのイベントも実施しました。キャラやイベントを紹介するショート動画に加えて、TikTok内で該当ゲームのライブ配信をするとゲーム内アイテムがもらえるなどの施策を展開しています。
国内タイトルの公式TikTokで最もフォロワーが多いのは『モンスターストライク』の9万人以上ですが、海外タイトルでは『原神』の72万人以上と大きな差をつけています(2023年12月時点)。
広告ネットワークにおけるSoVでも日本と海外パブリッシャーでの違いが見えます。Sensor Towerのデータによると、2023年第3四半期の日本のおけるモバイルゲームのApple Search Adでは、『パズル&ドラゴンズ』がトップで、5位に『モンスターストライク』、6位に『プロ野球スピリッツA』、8位に『ドラゴンクエストウォーク』が入っています。
Apple Search AdsはApp Storeへの唯一の広告配信ネットワークで、検索連動型の広告です。検索結果に応じて広告が表示されるため、プレイヤーの関心を引き付けやすく、課金率も高いとされています。
一方、同期間のX(旧:Twitter)では1位が『崩壊:スターレイル』で以下3位までが海外パブリッシャーのモバイルゲームが占め、YouTubeでもトップ3が海外パブリッシャーとなりました。X、YouTube共にモバイルゲーマーにはなじみのあるプラットフォームですが、検索連動型広告と比較するとより広いユーザーへの広告がリーチが期待できます。
ゲームのジャンルやリリースからの経過時間が関係するため一概には言えないものの、日本パブリッシャーのモバイルゲームは、すでにプレイヤーとなっている人たちにできるだけ長期間プレイしてもらうことに軸足を置き、それに応じた広告費の投下を実施している傾向が見られます。一方の海外パブリッシャーは、デジタルおよび現実世界の多方面で認知を広げることに注力したと言えそうです。
Sensor Towerのストアインテリジェンスのユーザーは、過去のパフォーマンス指標に加えて、アプリ収益とアプリダウンロード数の推定値を見ることができます。本レポートのSensor Towerの収益予測は、App StoreおよびGoogle Playからのもので、ユーザー総消費額を表しています。
また、データにはサードパーティのAndroidマーケットデータは含まれておらず、App StoreもしくはGoogle Playアカウントの初回ダウンロードのみ集計しています。同じアカウントが他のデバイス、もしくは同じデバイスで行った重複ダウンロードは集計に含まれていません。ダウンロードデータは同じアプリの異なるバージョンもまとめて集計しています(例:FacebookとFacebook Lite)。
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Sensor Towerの紹介
2013年にサンフランシスコで設立されたSensor Towerは、Twitter、Unity、Tencent、HBOなどのグローバルデジタル企業から信頼されている、データや分析環境を提供する企業です。モバイル市場のトレンド把握に役立つストアインテリジェンス、広告戦略の最適化に活用いただける広告インテリジェンスなど、デジタル分析プラットフォームとしてモバイルのあらゆる場面で質の高いインサイトと先進のカスタマーサポートを提供しています。
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