【弁護士が徹底解説】いじめにどう向き合うべきか? いじめ・体罰・虐待・SNS・不適切保育…妊娠中から乳幼児期、思春期までの子育てトラブルへの備え&解決に役立つ書籍『子育て六法』
子育てでありがちなトラブルから、できれば起きてほしくない深刻な問題まで、高橋麻理弁護士が100の質問に法的観点で回答する『子育て六法』は、わが子を犯罪の被害者にも加害者にもさせないために、親が知っておくべき法律の知識を網羅した、全保護者必読の書です。本書から、「いじめ」に関するポイントをまとめて紹介します。
いじめ、体罰、SNSトラブル……子どもたちをトラブルから守るための法の知識
一児の母である弁護士 高橋麻理さんの初の著書『子育て六法』が辰巳出版より刊行されました。本書では、妊娠・乳児期、幼児期、小中学校と子どものライフステージごとに起こりがちなトラブルと、親が子どもを守るための法の知識がQ&A形式でわかりやすく解説されています。
いじめは社会勉強? 親がとりがちな不適切な対応とは
たとえば、「いじめ」について、親は意外と知識を持ち合わせていません。自分の子ども時代にもあった、職場でも似たようなことがあるという感覚で、子どものいじめを「よくあること」「社会勉強」「いじめられるほうも悪い」などと考えがちです。その結果、わが子がいじめ被害を訴えてきた時に、不適切な対応をとってしまうこともあります。
しかし、今は「いじめ」は法律で定義づけられており、明確に禁止されています。弁護士 高橋麻理さんは著書『子育て六法』で次のように解説しています。
いじめ防止の対策などを定めた法律「いじめ防止対策推進法」では、「いじめ」とは、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されています。楽しそうに見えても、本人が心身の苦痛を感じていれば、その行為はいじめと評価される可能性があります。(『子育て六法』より)
また、文部科学大臣決定による「いじめの防止等のための基本的な方針」では、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、いじめられた子どもの立場に立つ必要があるとし、いじめられている本人がそれを否定する場合が多々あることを踏まえ、子どもの表情や様子をきめ細かく観察して確認する必要があることなどが明記されています。
ですから、たとえ相手が「愛あるいじり」などと行為を正当化していても、子どもが「いじり」により心身の苦痛を感じているなら、それは「いじめ」に該当し得るのです。(『子育て六法』より)
このように、いじめは法律で定義づけられ、防止するべきものと位置づけられています。
子どもが心身の苦痛を訴えてきた時は、「よくあること」などと訴えを矮小化せず、真摯に対応することが求められます。まずは子どもの訴えにじっくりと耳を傾けましょう。親以外の相談先(文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」、法務省「こどもの人権110番」など)を活用することも推奨されます。
学校はいじめに適切に対応するように法律で定められている
また、学校も、いじめに対しては適切に対応することが求められています。
いじめが発生したら、学校は、いじめ防止対策推進法や文部科学大臣決定による「いじめの防止等のための基本的な方針」などに基づき対応する必要があります。
まず、保護者からいじめ被害の相談があったら、学校側は訴えに耳を傾け、いじめにあたるかの判断をすることになります。その際、教職員一人の判断で状況を把握しようとせずに、法で設置が定められている学校いじめ対策組織を活用することが求められます。
いじめが確認された場合には、学校は、ただちに被害者やいじめを知らせてきた子の安全を確保して詳細を確認した上で、加害者の話も聞いて適切な指導をする必要があります。その過程でも、教育委員会への連絡、相談や、警察、児童相談所、医療機関、法務局等の人権擁護機関等との適切な連携をすることが求められています。
また、法律では、次のような場合には「重大事態」として組織を設け、質問票の使用等の適切な方法で事実関係を明確にするための調査を行うこととされています。
- いじめにより子どもが自殺をしようとした場合
- いじめにより身体に重大な傷害を負った場合
- いじめにより金品等に重大な被害を負った場合
- いじめにより精神性の疾患を発症した場合
- いじめにより子どもが相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認められる場合
(中略)
学校が何ら対応しないなら、公立学校なら地方公共団体の教育委員会へ、私立学校ならその学校を所轄する都道府県の相談窓口へ相談することが考えられるでしょう。(『子育て六法』より)
中には、いじめ被害者のほうが転校や転居を余儀なくされるケースがあります。これについても、高橋弁護士は次のように指摘しています。
いじめ防止対策推進法では、学校は「いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずる」「教育委員会は、いじめを行った児童等の保護者に対して(中略)当該児童等の出席停止を命ずる等(中略)必要な措置を速やかに講ずる」として、加害者側の別室学習や出席停止の措置が定められています。
また、文部科学省のホームページで公開されている「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント」では、被害を受けた子どもが安心して学校生活を送ることができる環境を整える一環として、クラス替えについても柔軟に検討されてよいことなどが示されています。(『子育て六法』より)
こういったことを知っておくと、いじめ被害について保護者と学校で話し合う際に、感情に任せることなく、法律や国の指針を参考に、学校に対応を求めることができるでしょう。
夏休み明けの新学期は、学校行事も多く楽しい時期である反面、子どもたちの心が不安定になりやすい時期でもあります。子どもの小さなSOSを大人がキャッチできるように、そしてできるだけ適切に対応できるように、法の知識を「知っておく」ことが必要です。
『子育て六法』では、ほかにも「いじめられる方にも原因がある場合いじめられても仕方ない?」「いじめの傍観者であることを気に病んでいる」「SNSで悪口を言われている」「警察が対応してくれない」など、いじめに関する14のケースを解説しています。
また、ベビーカーへの暴力行為、保育所での不適切保育、通園バスへの置き去り、部活の体罰、性被害、交通トラブルなどの子どもが逢いやすい被害と、犯罪に該当するような子どもの行動、心身の暴力や教育虐待など親の問題について、100の質問に弁護士 高橋麻理さんが回答。トラブル予防と解決のための「お守り」というべき一冊となっています。
- 著者メッセ―ジ
弁護士である私も、トラブルに直面したとき、すぐに法に基づく解決方法が理路整然と思いつくわけではありません。
でも、どんなときでも、「この状況に対して、法はどんな解決法を用意しているか?」と考えるくせをつけておくと、それだけで、少しだけ冷静に対処することができるように思います。
子どものトラブルに直面するたび、私は、何が事実なのかを見極めることの大切さや、いろいろな立場にあっても共通して守るべき法の知識の重要性を痛感しています。
そんなとき、法の知識は最強の「お守り」だと感じるのです。
親である私は、いつまでも子どものそばに張り付いて、子どもの笑顔を曇らせる全てのトラブルを解決できるわけではありません。
子どもが自分でトラブルを解決する力を育てていく必要があると思っています。
私と同じように、大事なお子さんの身に降りかかるトラブルをどうやって解決したらいいかと思い悩み、わが子が自分でトラブルを解決する力をつけられるようにと願う保護者の皆様に、この「お守り」をお届けするために、本書を書き綴りました。
(はじめに より)
<CONTENTS>トラブル事例より一部をご紹介
***妊娠中~乳児期のトラブル***
・職場に妊娠を知らせたらプロジェクトから外された。
・夫の育休申請が「前例がない」と却下された。
・電車内で赤ちゃんを乗せたベビーカーを蹴られた!
・短時間なら乳児を寝かせて外出しても大丈夫?
***幼児期のトラブル***
・よその犬をさわろうとして咬まれてしまった。
・会計前の商品を壊した!
・お友達の家の家具を派手に汚してしまった!
・子ども同士のけんかでお友達にけがを負わせた。
・子どもが保育所で大けが。
・登園時、スクールバスに1時間ほど置き去りにされた。
・保育士が子どもを叱るとき押し入れに閉じ込めるなど問題行為があるようだ。
・自分の子どもだったら、写真や子育てエピソードをSNS に投稿してもいい?
・言うことを聞かない子どもについ手を上げてしまった。
***いつでも身近にあるキケン***
・子どもが車道に飛び出して交通事故に遭ってしまった。
・公園のトイレに連れ込まれへんなことをされたらしい。
・ふざけてお友達の服を脱がせた。
・肌を露出した写真を撮影されていた。
***小中学校のトラブル***
・学校の高そうな備品を壊してしまった!
・友人に1万円貸したきり返ってこないらしい。
・親に無断でゲームに課金して高額請求がきた。
・公園の遊具でけがをした。
・裸足に薄着で歩いている幼児がいる。
・SNSで誹謗中傷に遭っている。
・出会い系サイトを友達と遊び半分で閲覧している。
・SNSに顔写真や個人情報をUPしていた。
・給食の完食指導のせいで子どもがPTSDを発症。
・ブラック校則は子どもの人権を侵害しているのでは?
・部活の顧問に殴られている。
・組体操で落下して骨折した。
・生理でプールを休んだら、かわりに校庭を走らされた。
・親がPTA に加入しなかったら子どもが記念品をもらえなかった。
***子どもの気になる行動***
・海賊版サイトでマンガを読んでいる。
・動画投稿サイトでゲーム実況を配信している。
・子どもが万引きをして通報された。
・SNSで芸能人に誹謗中傷のコメントを送っていた。
・兄が妹に性的ないたずらをしているようだ。
・野良の子猫を痛めつけて遊んでいた。
・火遊びが好きでマッチやライターで遊んでいる。
・飲食店で悪ふざけをして撮影した動画を友達同士で送っていた。
***いじめは絶対に許されない***
・いじめなのか遊び・悪ふざけなのか判断がつかないことがある。
・「いじり」と称して言葉のいじめに遭っている。
・チャットグループから外されたりSNS上で悪口を言われたりしている。
・いじめられる方にも原因がある場合はいじめられても仕方ない?
・いじめの傍観者でいることを気に病んでいる。
・いじめを学校に訴えても何も対処してくれない。
・いじめ被害を警察に訴えても対応してくれない。
***家庭でのトラブル***
・生活態度が悪いので、つい手を上げてしまうことがある。
・子どもに家事全般や家族の介護を担ってもらっている。
・受験のために、家庭でかなり厳しく学習指導をしている。
・DVから親子で避難したい。
・子どもが家出をした。etc…
- 書籍情報
書名:子育て六法
著者:高橋麻理(弁護士)
イラスト:オキエイコ
発行:日東書院本社(辰巳出版グループ)
発売日:2023年8月19日
定価:1,650円(本体1,500円+税)
体裁:A5判224ページ
<著者プロフィール>
高橋麻理
弁護士。第二東京弁護士会所属。弁護士法人Authense法律事務所。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。社外役員(社外取締役・社外監査役)に就任し、社内不祥事予防等業務に従事する一方、子どもが関わる離婚問題、子どもに関わる犯罪、学校問題等にも取り組み、子どもへの法教育として小中学校でのいじめ予防授業、保護者向け講演なども行う。法律問題を身近なものとしてわかりやすく伝えることを目指し、テレビ、ラジオ、新聞等メディア出演も多数。『大人になる前に知ってほしい 生きるために必要な「法律」のはなし』(ナツメ社)共同監修。一人の母として子育て奮闘中。
<イラストレータープロフィール>
オキエイコ
イラストレーター。SNSや書籍で妊娠・出産、育児、猫マンガを発信。著書に『ダラママ主婦の子育て記録 なんとかここまでやってきた』『ねこ活はじめました』(KADOKAWA)など。猫の母子手帳『ねこヘルプ手帳』などを手がける。
※本書の内容および参照している法律等の内容は令和5年7月現在の情報に基づいています。
※本書の解説は各トラブルについての一つの解釈です。類似のトラブルに関する責任は負いかねます。
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