能登半島地震の現地調査報告 被害の特徴と傾向

株式会社さくら事務所

2023.05.12 15:16

業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)、マンション管理組合向けコンサルティングを行う“不動産の達人”株式会社さくら事務所(東京都渋谷区/社長:大西倫加)が運営するシンクタンク「だいち災害リスク研究所」は、5月9日(火)に実際に被害の大きな珠洲市内を中心とした現地調査を行いました。ここでは、地下の「流体」が関与しているという説もある地震で、実際にどのような被害が発生していたか、今後の地震発生に際して気を付けるべき点はどこか、調査結果をまとめました。

能登半島地震の概要

 5月5日14時42分ごろ、能登地方(能登半島北東部)を震源とするM6.5の地震が発生しました。地震でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

 この地震では石川県珠洲市で最大震度6強を観測しており、既に公開情報をもとに「能登半島地震の特徴と被害・今後の注意点を解説 」のコラムを公開しております。重ねて、5月9日(火)に実際に被害の大きな珠洲市内を中心とした現地調査を行いました。ここでは、地下の「流体」が関与しているという説もある地震で、実際にどのような被害が発生していたか、今後の地震発生に際して気を付けるべき点はどこか、調査結果をまとめました。

 能登半島北東部、珠洲市の飯田湾沿岸を中心に調査を実施しました。車で移動し、被害が目立った地点において徒歩で踏査を実施いたしました。正院町正院では、とくに地域内を歩いて被害状況を観察しています。

住宅地における被害

 正院町正院では、とくに複数の倒壊、大破した建物が確認されました。周辺の住宅は、2階建てもしくは一部2階建ての、能登地方に多い、主に木造在来工法で黒色の光沢のある能登瓦葺き屋根の住宅が目立ちました。徒歩で踏査してみると、地域内でやや被害状況が異なるようにも見受けられました。須受八幡宮を起点として踏査すると、南側に行くとやや被害が大きく、南西側に向かうと特に倒壊、大破した建物が目立つような状況でした。

 正院町付近では「微動探査」による調査が実施され、地域の南西側で被害が集中した理由について、表層地盤増幅率2を超える揺れやすい軟弱な地盤があったことなどが報告されています。また、正院地域の北西側には、地震観測点の「K-NET正院」の観測点があります。この観測点で観測された地震動は最大加速度676galと極めて大きく、周期1~2秒程度の揺れが卓越していました。このような地震波は「キラーパルス」と呼ばれるもので、古い木造住宅で被害を増大させることが知られています。

 正院町正院付近の一部で建物被害が多かった理由としては、表層地盤増幅率が大きいなどの「地盤」の影響と、周期1~2秒程度の「キラーパルス」に相当する揺れの影響があったことが想定されます。

 周辺では、ブロック塀の損壊、マンホールの突出(今回の地震前からの現象である可能性もあります)のほか、瓦やガラス、壁などの落下が至る所でみられました。住宅街で地震の大きな揺れがあった場合は、古い家屋の損壊やブロック塀の倒壊のほか、このような瓦、窓ガラスなどが落下してくるおそれがあります。

 須受八幡宮では、特徴的な被害がみられました。鳥居のずれ、石塔、手水舎、東西の狛犬とも、大半が真北方向に倒れていることがわかります。南北方向強い揺れによる倒壊の可能性が考えられます。

 珠洲市宝立町の内海街道沿いでは、2階建て住宅の1階部分が潰れているとみられる住宅被害がありました。乗用車も下敷きになっています。地震では家屋の損壊と共に、財産であり被災時にはプライバシーが確保できる避難場所ともなる自家用車が被害を受けることもあります。

港湾部における被害

 珠洲市役所からすぐ南にある、埋立地である港湾の飯田港でも特徴的な被害がみられました。港湾の岸壁に沿った向きに地面に長く地割れ・ひび割れが伸び、10数cm程度の段差になっている場所がみられました。舗装がある地点では、陸側の地盤が沈下したようになり、隙間から多量の砂と水が流出した液状化跡とみられる痕跡が認められました。

 「港で隆起発生」というニュースがあり、地殻全体の変動と混同があるようでした。現地での観察では特徴的な噴砂や水の吹き出しがあったことが確認されており、液状化によることを支持します。このような変状は、港湾部の地盤の液状化により海側に地盤が流動したことによる、背後(陸側)の地盤の沈下と考えることが妥当だと思われます。

 港湾部にある建物では、建物の基礎部分と、流動して引っ張られたとみられる地盤との間が凹地状に沈下している様子もみられました。一部で基礎部分が大きくむき出しになっています。

がけ崩れによる被害

 珠洲市正院町岡田では、最大で約25mほどの高さとみられる、石切り場の跡のような場所がみられました。周辺の崖は、珪藻土の原料になる場合もある、珪藻質泥岩です。能登半島北部は珪藻質泥岩の一大産地でもあり、七輪やコンロのほか、レンガや吸着剤など、高い断熱性や成型の容易さから様々な用途に用いられています。

 この切り土斜面の延長部の崖下にある家に、珪藻質泥岩が崩れて住宅になだれ込んでいる被害がみられました。珪藻質泥岩の一部は前面道路にまで達しており、拾ってみると非常に軽く、風化しているとボロボロ崩れて手で容易につぶれるほどの「軟岩」ですが、大きく崩壊することで被害を与えています。

 珪藻質泥岩の性質もありますが、急な切土斜面やがけの付近では、大きな地震や豪雨の際にはがけ崩れが起こる危険性には要注意です。豪雨であれば事前に避難ができることもありますが、急にやってくる地震では事前の避難ができません。

何が起こっていたか?

 以上、石川県珠洲市で被害が大きかった地点の調査によって、以下のような被害が発生していたことが判明しました。

・耐震性の低いとみられる家屋の倒壊・損壊

・ブロック塀の損壊・倒壊

・家屋の倒壊に巻き込まれた自家用車

・屋根瓦・窓ガラスなどの落下

・鳥居、石塔、狛犬などの倒壊・転倒

・壁の落下、塀の転倒

・港湾部では地盤の液状化によるとみられる地盤沈下

・斜面が背後にある住宅では、崖の崩落

 発生原因が地下の「流体」が影響しているという説もあり、発生メカニズムが異なる点はありますが、現れている被害が特殊と言うことではなく、ほかの多くの地震で見られる被害と共通しているものでした。必要な対策とはほかの地域と変わることはなく、地どのような被害を受ける可能性が有る立地・住まいに住んでいるか事前に知り、どのような対策・備えをするかが重要でしょう。

 軟弱な地盤の地域では激しい揺れ、揺れが大きかった地域では耐震性の低い家屋から倒壊・損壊、ブロック塀の倒壊、家具や家電などの落下等、崖沿いではがけ崩れ、埋立地などでは液状化現象など、被害の傾向や起きやすい傾向はあります。

 地震に対して本当に強い家とは、以下の3つの条件があると考えます。

  • ①地盤の地震に対する特性や切土・盛土の特徴、液状化エリアといった「立地」
  • ②建物の耐震等級、設計・施工に関わる「初期性能」
  • ③初期性能を長く維持していくための制振ダンパーや蟻害、雨漏りを防ぐなどの「性能維持」

これらに着目し、地震への備え、対策を考える機会として頂けますと幸いです。

 

コラム:「能登半島地震の現地調査報告 被害の特徴と傾向

■不動産の達人 株式会社さくら事務所■

東京都渋谷区/代表取締役社長:大西倫加
https://www.sakurajimusyo.com/
1999年、不動産コンサルタント長嶋修が設立。「人と不動産のより幸せな関係を追求し、豊かで美しい社会を次世代に手渡すこと」を理念として活動する、業界初の個人向け総合不動産コンサルティング企業で2022年5月1日現在で61,044件を超える実績を誇る。

■だいち災害リスク研究所■

所長:横山芳春
https://www.sakurajimusyo.com/daichi/
安全性の高い土地選びと住宅づくりを広めることを目的として2021年に大西倫加が設立。防災のコンサルティング事業を開始し、国内唯一の個人向け災害リスク診断サービス「災害リスクカルテ」を提供する、さくら事務所運営のシンクタンク。

 

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