四十路の教師が城主の嫡男(幼児)に転生!? 「小説家になろう」で話題の転生×戦国小説『冬嵐記 福島勝千代一代記』を2月20に発売いたします。
交差点で事故に遭ったことは覚えている。でもその後は……? まさか憑依? 転生? 混乱しながらも、今の己の身体が戦国時代に生きる勝千代という名の幼子であると理解した自分。だが、勝千代は城主の嫡男でありながら、父の側室や異母兄たちから虐待され、今にも死にそうなありさまなのだ。なんとしても幼いこの身体を死なせてはならない。勝千代の中の人である四十路男は、知恵を振り絞り、必死に勝千代を生き延びさせようとするが!?
戦国時代に迷い込んでしまった現代人による、ヘルモード・サバイバルから始まる戦国成長物語!
勝千代は今、木枯らしの吹きつける庭先で、半裸の状態で座らされていた。
襤褸の小袖の上半身を剥がれ、冷たい土の上に膝をつき、起坐の姿勢で長時間いる。
意識が朦朧としてぐらつくと、すかさず近寄ってきた若い武士に引き起こされる。
持っていた太刀の鞘で容赦なく背中を打擲し、その身体が吹き飛ばないよう髪を掴んでいるのだ。
しかもわざとだろう、飾りの部分が当たるように毎度角度を調整してくる。
いやマジでお前、覚えてろよ。
引き起こされるたびに、髪がぶちぶちと千切れる音がする。千切れるだけならまだいい。絶対に何本も抜けている。
……許さん。
かすむ視線の先で談笑しているのは、桂殿と異母兄、叔父のトリプルコンボ。
ひとりずつでもひどい目に遭わせられるが、三人そろうと非常にまずい。
過去の経験上、無事に部屋に戻れたためしがないのだ。
寝込んでいる時間が長く、ほかにすることもないので、どうすればこの状況から脱することができるか考えていた。
そもそもの原因は、勝千代が嫡男だからだと思っていたが、それならさっくり殺してしまえば済む話なのだ。
痛めつけるのも死なない程度、毒も致死量ではない。つまり、だらだらと生き長らえさせている。
いや、生き長らえさせている、というのには語弊がある。死んでも構わない、むしろ死んでほしい、と思っているのは確かなのだ。
それなのに積極的に殺そうとはしてこない。……何故だ?
父の目を気にしてか? できるだけ苦しめたい?
何か、勝千代が知らない事情があるのかもしれない。
段蔵が素早く用意してくれたのは、御台様の書簡に比べると手触りがゴワゴワしていて、黄色味がかった紙だった。
筆も質が悪く、書いていて何度も引っかかる感覚がある。文句ばかりで申し訳ないが、墨もざらつきが強く、どんなに擦ってもきれいには溶けない感じがする。
もちろんそんなことを口にはしないが、慣れ親しんだ現代の書道具に比べて品質が落ちるのは明らかで、やけに水を吸い滲む紙にまともに文字をしたためるのにも苦労した。
とはいえ、この時代に紙は貴重品なのだ。失敗しないよう慎重に書き綴り、失礼にならない程度の手紙を仕上げるのにかなり時間を要した。
なんとか書き上げ、少し距離を開けて眺める。
この時代に来て初めての書道だが、満足できる出来とは程遠い。
手がまだ小さく、うまく動かせないということはもちろんあるが、それよりも問題なのは紙質だ。
全体的な文字の滲みは見苦しいほどだったが、紙を浪費するわけにいかないし、客を待たせてもいるしで、書き直すのは我慢する。
筆を置き、乾くまで待とうと顔を上げて……。
そこで初めて、大人たちがあ然として自分を見ていることに気づいた。
どうしてそんな目で見られるのかわからず、こてりと首を傾げる。
……あ、まずいかも。
すぐに理由に思い当たった。まだ三つ四つの幼子が、達者に文字を書けるはずがないのだ。
しかも手習いしたてのつたなさではなく、仮名漢字交じりの長文である。
誤魔化したくとも、すでに時は遅し。
考えなしの行動で墓穴を掘ってしまった、最初の出来事だった。
タイトル:冬嵐記 福島勝千代一代記
シリーズ名:モーニングスターブックス
著者:槐
イラスト:上條 ロロ
定価:本体1,300円(税別)
四六判 324ページ
ISBN 978-4-7753-2130-0
発行年月日:2024年02月20日
【Amazon】https://www.amazon.co.jp/dp/4775321307
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