『スマートフットレスト』のフィールド調査の結果が出ました

有限会社ハーティー・メッセージ

2023.12.07 13:08

スマートフットレスト(車椅子の新しい足置き部分)が厚生労働省による「介護ロボット等モニター調査事業」に採択(採択案件番号:05-C03)され、フィールド調査が実施されました。結果として、手指衛生環境を向上するプレート部分への接触回数の大幅な減少、介護負担感の半減が確認され、スマートフットレストの有効性が示されました

1  はじめに

従来型フットサポートには、(1)プレート部の開閉操作の際の摩擦抵抗による操作困難や、(2)プレート部の収納(閉操作)不十分によって足部や下腿部分をプレート部に引っかけて生じるけがや転倒などのリスク、さらに、(3)手を使っての操作が多く不衛生である、などの課題が存在していた。スマートフットレスト(図1)は、これら従来型フットサポートの課題を解消するために開発された、全く新しいフットサポートである。

プレート部分を左右で折りたたむ今までにない構造のスマートフットレストは、開操作の際は、プレートの山折り頂点部分に足を乗せると開き、閉操作時はプレートの底の部分を軽く突き上げると、あとはスプリングのサポートで閉じる。いずれの動作も超高分子量ポリエチレン繊維とスプリングの作用により、わずかな力で操作できるという特徴を有する1)。さらに、プレート部分に手を触れることなく足だけで操作が可能となることから、衛生面の向上や介護負担軽減に資するとして注目されている2~4)。

今回、このスマートフットレストに対して、「介護ロボット等モニター調査事業*(採択案件番号05-C03)」によるフィールド調査が実施されたので報告する。

*:厚生労働省による「介護ロボット等モニター調査事業」とは、開発中又は上市して間もない介護ロボット等について、介護現場における使い勝手や具体的な課題、ニーズの特定等を行い、企業にとって有用となる情報を収集するためのモニター調査を行うことを目的に実施されるものである。

 

 

 

2  方法

調査は従来型フットサポートとスマートフットレストの対比による、①足乗せプレート部分(以下、プレート)へのスタッフの手指接触回数の変化、②プレート開閉操作に伴う介護負担感の変化、③車椅子使用者(以下、使用者)のプレート開閉操作の自立度の変化、④スタッフへのアンケート調査とし、質問紙による自己記載、または聞き取りとした。従来型フットサポートとスマートフットレストの対比は、条件統一を図るために日中勤務帯の同一6時間とし、入浴の有無など両調査日において業務内容に違いがないことを確認し、実施した。なお、スマートフットレストの取り付けは理学療法士が担当し、従来型フットサポートと同じ高さ設定とした。

調査は2023年10月2日から2023年11月24日の8週間で実施され、調査に先立つ9月21日にはメーカー、フィールド調査施設、厚労省サイドの各スタッフが、調査実施施設に集合してオリエンテーションを行い、事業の趣旨と本製品の使用方法が周知された。また患者・利用者には事前にフィールド調査施設スタッフが趣旨を説明し、同意を得た。

 

《対象者》

・使用者22名(表1)

広島パークヒル病院 回復期リハビリテーション病棟と、介護老人保健施設 西広島幸楽苑に入院・入所中の患者・利用者の中から、日常生活に車椅子を使用し、フットサポート操作が介助レベルである22名を対象者とした。年齢は68~99歳(平均±標準偏差;88.0±7.1歳)、性別は男性4名、女性18名、介護度は要介護1が2名、要介護2が1名、要介護3が7名、要介護4が9名、要介護5が3名であった。認知症の程度としては、長谷川式スケールは0~20点(平均±標準偏差;8.7±5.3点、内2名は検査困難にてn=20)であった。

 

 

・スタッフ46名(表2)

広島パークヒル病院 回復期リハビリテーション病棟と、介護老人保健施設 西広島幸楽苑に勤務する46名を対象とした。性別は男性22名、女性24名、腰痛の有無は、あり24名、なし21名、無記載1名であった。職種は、介護士18名、看護師9名、作業療法士8名、言語聴覚士1名、理学療法士10名であった。

 

 

《調査項目》

①           プレートへのスタッフの手指接触回数の変化

あらかじめ使用者を選定し、その使用者1名に対して、従来型フットサポートとスマートフットレストのプレートへの手指接触回数を日中6時間で比較した。また、スタッフの業務遂行のための入れ替わりによる接触回数の減少を避けるため、車椅子に手指接触回数記載表を設置して、スタッフが入れ替わった場合でも代わりのスタッフが接触回数を記載し、全容把握に努めた。判定には対応のあるt検定を用い、片側検定P値5%未満を有意水準とした。

②           プレート開閉操作に伴う介護負担感の変化

プレート開閉操作に伴う介護負担感の変化を明らかにするため、従来型フットサポートとスマートフットレストでの日中6時間での負担感に対して、NRS(Numerical Rating Scale)を用い、「全く負担ではない(0点)」~「非常に負担である(10点)」までの11段階評価を用いた。判定には対応のあるt検定を用い、片側検定P値5%未満を有意水準とした。

③           使用者のプレート開閉操作の自立度の変化

使用者のプレート開閉操作の自立度の変化を明らかにするため、プレート開閉操作の状況を「全介助」「部分介助」「声掛け・見守り」の3段階に分類し、従来型のフットサポートとスマートフットレストでの変化を比較した。判定にはWilcoxon 符号付順位和検定を用い、P値5%未満を有意水準とした。

④           スタッフへのアンケート調査

スタッフに対して「スマートフットレストを継続して使用したいと思いますか」、「スマートフットレストは介助者の介護負担を軽減すると思いますか」、「スマートフットレストを使用することで衛生環境が向上すると思いますか」、「スマートフットレストを使用することで半開きによるけが、転倒が減ると思いますか」の4つの質問項目に対して、「思う」「やや思う」「あまり思わない」「思わない」の4段階尺度での回答を求めた。

 

 

3  結果

①           プレートへのスタッフの手指接触回数の変化(図2)

従来型フットサポートの手指接触回数は平均9.5±標準偏差6.3回、スマートフットレストでは平均1.3±標準偏差1.8回であり、スマートフットレストの使用により、プレートへの手指接触回数の有意な減少を認めた。平均値の減少率は86.3%であった。

 

 

②           プレート開閉操作に伴う介護負担感の変化(図3)

従来型フットサポートの負担感は平均5.1±標準偏差2.0、スマートフットレストでは平均2.7±標準偏差1.6であり、スマートフットレストの使用により、主観的な介護負担感の有意な減少を認めた。平均値の減少率は47.1%であった。

 

 

③           使用者のプレート開閉操作の自立度の変化

「全介助」を1、「部分介助」を2、「声掛け・見守り」を3として順位付けしたWilcoxon 符号付順位和検定結果では、中央値に変化はなく、またP値も基準値より大きく、有意差は認めなかった(表4)。

従来型フットサポートからスマートフットレストへの変更により、「声掛け・見守り」から「部分介助」に移行した者は2名、「全介助」から「部分介助」への移行が2名、逆に「部分介助」から「全介助」への移行が2名であった(図4)。

 

 

 

④           スタッフへのアンケート調査(図5)

「スマートフットレストを継続して使用したいと思いますか」

「思う」10名22%、「やや思う」28名61%、「あまり思わない」7名15%、「思わない」1名2%であり、肯定的な意見が83%であった。

「スマートフットレストは介助者の介護負担を軽減すると思いますか」

 「思う」20名44%、「やや思う」18名39%、「あまり思わない」8名17%、「思わない」0名0%であり、肯定的な意見が83%であった。

「スマートフットレストを使用することで衛生環境が向上すると思いますか」

 「思う」14名30%、「やや思う」28名61%、「あまり思わない」4名9%、「思わない」0名0%であり、肯定的な意見が91%であった。

「スマートフットレストを使用することで半開きによるけが、転倒が減ると思いますか」

 「思う」5名11%、「やや思う」25名54%、「あまり思わない」16名35%、「思わない」0名0%であり、肯定的な意見が65%であった。

 

 

4  考察

統計結果からは、スタッフの手指衛生環境を改善するプレート部接触回数の大幅な減少(減少率86.3%)と、介護負担感の半減(減少率47.1%)が確認された。一方、自立度の向上に関しては有意差は認めなかった。対象となった使用者全員が認知症を合併し、長谷川式スケールで正常レベルとされる21点を超える者がなく、平均8.7点と重度であったこと、また、この重度の認知症に加えて、日中の6時間限りの使用であったため、使用者がスマートフットレストの操作に慣れる(学習する)までの時間が短かかったことが要因と考えられた。

スタッフへのアンケート調査結果からは、「スマートフットレストを継続して使用したいと思いますか」と、「スマートフットレストは介助者の介護負担を軽減すると思いますか」が、「思う」「やや思う」を合わせて83%、「スマートフットレストを使用することで衛生環境が向上すると思いますか」は、「思う」「やや思う」を合わせて91%が肯定的な意見であり、先のプレート部接触回数の減少結果、介護負担感の減少結果と合致していた。また、「スマートフットレストを使用することで半開きによるけが、転倒が減ると思いますか」に関しては、「思う」「やや思う」で65%を占め、スマートフットレストを使用することで、けがや転倒回避を期待するスタッフが過半数を超えることが判明した。

 

5  結論と展望

 いわゆる標準型車椅子は、1933年に米国E&J社により開発・販売され5)、以後、世界中に普及することとなるが、約1世紀を経た現状でもその基本的な構造には変化がなく、フットサポート部分の開閉操作には抵抗器による抵抗が強く「不便」であり、開閉操作不十分によって、足部や下腿部分をプレート部に引っかけて生じるけがや転倒などの「不安全」、さらに手を使っての操作が多く「不衛生」であるなど、多くの課題を有している。

今回のフィールド調査によって、これらの課題を解消するために開発されたスマートフットレストの効果が、「不安全」以外で裏付けられる結果となった。

フットサポートに起因する事故、またはインシデント発生に関した報告では、消費者安全調査委員会が平成29年に公表した『事故に関する情報提供(手動車いすのフットサポート)』があり6)、同報告ではフットサポート部への接触事象が1ヵ月間、延べ2,500人で24人に発生している。スマートフットレストによりこの発生率がどのように変化するかは大規模な調査が必要であり、今後の課題としたい。

 

6  参考文献

  1. 有限会社ハーティー・メッセージ:敷地雄一,特許第7355435号, “フットレスト” 2023年9月25日.
  2. https://www.resja.or.jp/contest/data/2023/2023002.jpg 日本リハビリテーション工学協会 福祉機器コンテスト2023 受賞作品紹介HPより
  3. 高知新聞 2023年10月14日発刊号
  4. シルバー新報 2023年11月10発刊号
  5. 沖川悦三:車いすの歴史的変遷と今後の展望.日本義肢装具学会誌.Vol27(1),28-33, 2011
  6. 消費者安全調査委員会:事故に関する情報提供(手動車いすのフットサポート).平成29年3月14日

 

*本レポートに関して申告すべき COI はありません。
また、本レポートは、公益社団法人 高知県理学療法士協会の機関誌
『高知県理学療法(ISSN 1342-4920)』の第31号に受理され、
原著論文として掲載されます(発刊日令和6年3月31日予定)。

 

 

 

Smartfootrest field survey results from the "FY2023 Nursing-care Robot Monitoring Survey Project"

 

 

Yuichi SHIKICHI1), Hiroshi MATSUSHIGE2) , Masako YAMAGUCHI3)

 

1)Hearty Message Co.,Ltd, Physical Therapist

2) Elderly health facility Nishihiroshima kourakuen
2) Department of Rehabilitation, Hiroshima park-hill hospital & Elderly health facility Nishihiroshima korakuen

 

 

Abstract A field study of the Smartfootrest was conducted as part of the "FY2023 Nursing-care Robot Monitoring Project," and a comparison was made with a conventional foot support. The results showed that the Smartfootrest reduced the number of times a caregiver touches the plate part of the foot support (reduction rate: 86.3%) and the burden of caregivers when operating the same part (reduction rate: 47.1%). It was confirmed that the Smartfootrest provides a more hygienic environment for the wheelchair caregiver and reduces the burden of caregiving. On the other hand, no statistically significant differences were found in the degree of independence of wheelchair users. Reasons for this were thought to be the effects of dementia and a shorter learning period for operation.

 

Key Words: Smartfootrest, Monitoring survey project for nursing care robots, etc., Field survey, Wheelchairs, Footrest

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種類
調査レポート

カテゴリ
美容・健康