卵を食べた母親の授乳は新生児の卵アレルギーの発症に影響しない

学校法人慈恵大学

2023.07.11 12:03

国内の計10施設のランダム化比較試験で明らかに

東京慈恵会医科大学分子疫学研究部教授浦島充佳と国立病院機構相模原病院臨床研究センター・小児科の永倉顕一、佐藤さくら、海老澤元宏らの研究グループは、臨床研究に参加した380人のデータを解析し、早期新生児期の母の鶏卵摂取は母乳栄養児の鶏卵アレルギーの発症に影響しないことを明らかにしました。

国立病院機構相模原病院臨床研究センター・小児科の永倉顕一、佐藤さくら、海老澤元宏、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島充佳教授らの研究グループは、臨床研究に参加した380人のデータを解析し、早期新生児期の母の鶏卵摂取は母乳栄養児の鶏卵アレルギーの発症に影響しないことを明らかにしました。

< ポイント >

両親のどちらかにアレルギー疾患のある新生児を対象に、生後5日間に母が卵1個/日を連日摂取する児(鶏卵摂取群)と同時期に母が卵を完全除去した児(鶏卵除去群)に無作為に割り付けて調査を行いました。結果は以下の通りでした。

  • 生後12ヶ月時の鶏卵アレルギーの発症率は、鶏卵摂取群 3% vs 鶏卵除去群 7.6%と有意差はなかった。
  • 生後3-4日の母乳中の卵タンパクが検出された児の割合は11% vs 2%と鶏卵摂取群で有意に多かった。
  • 生後12ヶ月時の卵に対する感作、牛乳・小麦アレルギーの発症率も有意差はなかった。

  • 有害反応の発生は0例であった。

本研究は国立病院機構(NHO)ネットワーク共同研究から資金援助を受けたものであり、成果は7月10日にJAMA Network Open誌に掲載されました。

・東京慈恵会医科大学 分子疫学研究部 教授 浦島充佳 のコメント

 食物アレルギーは世界中で増加傾向であり、乳幼児の約10%に発症します。特に本邦では鶏卵が食物アレルギーの原因として最多を占めており、発症予防の対策が求められています。

 近年、鶏卵アレルギー児に対して生後3~6カ月など乳児期早期からの卵タンパク摂取が免疫寛容を誘導して鶏卵アレルギーの発症リスクを下げると報告されています。しかし、いつからどの程度の卵を与えると良いのか悪いのかは判っていません。

私たちは2019年のABC試験で生後3日間に母乳に加えた数cc単位以上の人工栄養(粉ミルク)の摂取が牛乳アレルギーを含む食物アレルギーの発症を増加させると報告しました。一方、生後4日目以降にミルクを加えても食物アレルギーは増えていなかったのです。

この結果を受けて、「生後3日など腸内細菌叢がまだ整っていない新生児早期に粉ミルクを飲むことでグラム単位の牛乳蛋白抗原が腸管内に入る。その結果、腸管粘膜に炎症が起こす。炎症により腸管粘膜の透過性が亢進し、食物抗原が体内に吸収されやすくなる。そのことで、牛乳アレルギーだけではなく、食物アレルギー全般が増えた。」と仮説を立てました。

逆に、母親が牛乳を摂取しても食物アレルギーが増えたわけではありません。母乳を介して児が摂取する牛乳抗原量はマイクログラム単位で、直接粉ミルクを摂取する場合の数百万分の1です。そこで私たちは「生後5日など母親が卵を食することで、母乳中にマイクログラム単位の鶏卵蛋白が分泌される。これが児にとっての自然の減感作療法となり、卵アレルギーの発症を予防できる。」と仮説を立てました。

しかし、結果は仮説通りではありませんでした。生後5日間に母が卵を連日摂取しても児の卵アレルギーの発症が増えることもなければ減ることもなかったのです。このことは生後早期に母親が加熱された卵を摂取しても大丈夫ということです。

主な結果はネガティブでした。しかし、事後解析で私たちは次の研究につながるような興味深い結果を得ました。それは「母乳中に鶏卵蛋白が検知された場合、卵アレルギーの発症リスクが高まる」というものです。このことはABC試験同様、「母乳を介してでも出産後早期の鶏卵蛋白曝露は児の卵アレルギーの発症リスクを上げ得る」ことを示唆しています。ひょっとすると、産科病棟にまだ入院中の生後早期に卵数個以上を使ったオムレツを毎日食べたら卵アレルギーのリスクが高まるのかもしれません。

今回、出産後早期に母親が1日1個の卵を食しても安全であることを示しました。しかし、1つの研究が終わるとまた次の課題が見えてくるものです。生後3カ月から卵を児に与えると卵アレルギーが減ることが他の研究グループに示されたわけですが、生後2か月、あるいは1カ月ではどうかが判っていません。さらに離乳食として児に直接与えるべきなのか、それとも母乳を介して間接的に与えるべきなのか? 例えば「出産後7日より1カ月間、授乳中の母親が1日1個の卵を摂取すると卵を避ける場合と比較して児の卵アレルギーの発症リスクを予防できるか」といったランダム化臨床試験を組むのも一案です。子供たちの健康を守るための研究は今後も続きます。

 

 

【本研究内容についてのお問い合わせ先】

国立病院機構相模原病院 小児科・臨床研究センター 永倉顕一、佐藤さくら、海老澤元宏 電話 042-742-8311(代)

東京慈恵会医科大学 分子疫学研究部 浦島充佳 教授 電話 03-3433-1111(代)

 

 

【報道機関からのお問い合わせ窓口】

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電話:042-742-8311

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学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課

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